としまえん

私は2020年3月1日から東京都練馬区に住んでいる。

 

今日は8月31日だから住み始めておよそ半年になる。

2020年8月31日といえば、そう練馬区唯一の遊園地

としまえん」が閉園する日だ。

 

東京で物件を探している時、不動産屋さんから練馬の物件を紹介され「近くにはとしまえんがありますよ!もうすぐ閉園ですけどね…」というPRの台詞を聞き、「なんだもう閉園するのか…」と肩を落としながらも結局家賃の安さから練馬の物件に決めたことを覚えている。もうすぐ閉園だし一度は行っとくかという思いを維持したまま現在2020年8月31日に至っている。

 

としまえんでは今月に入ってから毎週金土日の20時から花火が上がっていた。最初は花火が打ち上がる爆撃音に驚きながらも感動していたが、なにしろ毎週あがるもんで3週目くらいからはありがたみもなにも感じなくなっていた。

 

一昨日、つまり8月29日友人と共にとしまえんの花火をきちんと見ようと打ち上がる景色が綺麗に見える位置から花火を見た。その時はまあ、何度か見てたし花火ってこんな感じだよなぁというありきたりな感想を浮かべその後友だちと共にサイゼリアへ向かい5千円ほど豪遊しその日はお開きとなった。

 

昨日8月30日は日曜日なので花火が打ち上がる最終日かなと思いながらも家の中から花火が打ち上がる音を聞きたまに窓を開けて花火の断片を伺うくらいだった。

 

そして今日、8月31日私は昼から夕方にかけバイトを済ませ、家に帰ってからは前日途中まで観ていた映画タクシードライバーを視聴しながら酒を煽っていた。タクシードライバーを視聴し終え物語のあらすじや登場していた俳優達のことを調べながらタバコを吸っていると急にそれは現れた

 

パン!パン!パン!

 

先程映画の中で聞いた銃声のような音が外で鳴り響いた。としまえんの終わりの始まりを告げる、空を突き抜けるような明るく爽快な音だった。瞬時に頭の中で「そうか今日閉園の日か」「今日も花火打ち上がるんだなぁ」「最後は練馬市民として見守りたいな」という思いが巡り着の身着のまま家を飛び出した。と同時に同じアパート内の他の部屋からもガチャリガチャリと何人か人が飛び出してくる音が聞こえた。さらに外には今まさに住宅から飛び出してきたような人々が大人から子どもまで大勢の人が皆空を見上げながら立っていた。

私はもっと見やすい所から見ようと小走りでとしまえんの方向へ向かった。

段々と花火が鮮明に見えるようになり比例するように人だかりも多くなってきた。

花火はおよそ7分間続いた。集まっていた人々は皆静かに、しかしとても温かい目で打ち上がる花火を見守っていた。練馬区に住みついてまもない私でさえも打ち上がる花火から「今まで愛してくれてありがとう」と告げているように感じられた。

最後の花火が打ち上げられ、練馬の夜空に色彩豊かな火花が煌めいた。

花火が終わると同時に集まっていた人々による盛大な拍手喝采が行われた。としまえんの感謝の気持ちに応えるように練馬市民によるありがとうの拍手だった。

私は感極まっていた。涙が出そうでもあり笑顔が止まらなくもあった。拍手喝采を終え、帰路についた。

 

としまえんの有終の美を見届ける練馬区民の温かい気持ちを間近に感じ、としまえんへの愛、さらに練馬区への愛が私の中で一層強くなっていた。

 

練馬に住み始める前は地域最大のアミューズメント施設がまもなく閉園だなんて、ついてないなぁなんて考えていたが、こんなに市民に愛され、また練馬にとどまらず多くの人々に愛されていた遊園地の最後の瞬間を住民として見届けられるという事がとても幸せに感じられた。

 

としまえんは閉園し、いずれ新たなアミューズメント施設に生まれ変わるが、私の心の中には今日見た花火の綺麗さと住民の温かさが一生残り続けるだろう。

 

この時期に練馬に住むことができて本当に良かった。ありがとうとしまえん